『ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11』要約と感想【正直、読みづらかったけど学びは深い】

『ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11』要約と感想【正直、読みづらかったけど学びは深い】

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おのり
おのり
『ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11』を読了。正直かなり読みづらい本ですが、ブランド成長や市場シェアの考え方は学びが深い一冊です。 この記事では、そんな「読むのがしんどい…でも読む価値のある」1冊を、読みやすく章ごとに整理した要約とともに、私の感想や学びをお届けします。

書籍概要

  • タイトル:ブランディングの科学 誰も知らないマーケティングの法則11
  • 著者:バイロン・シャープ
  • 内容:従来のマーケティング理論や「ブランドロイヤリティ」への過信に疑問を投げかけ、エビデンスに基づいたブランド成長のための原則を提示する。

章ごとの要約

第1章 マーケティングにはまだ改善の余地がある

マーケティング活動は、実は想定ほど効果が出ていない。たとえばテレビCMの平均認知率は40%程度で、そのうちブランド名まで記憶されているのはさらに少ない。広告のクリエイティブによって差が大きく、広告の「伝わり方」にはまだまだ伸びしろがあるという前提から本書は始まる。

第2章 ブランドの成長は新規顧客の獲得にかかっている

ブランド成長の本質は、売上やロイヤリティではなく市場シェアの拡大にあると語られる。どのブランドでもロイヤル顧客の割合は大きく変わらず、売上増には新規顧客の獲得が不可欠だと主張される。つまり、リピート客に頼らず、広く買われるブランドが成長するというシンプルな構造を提示している。

第3章 顧客維持よりも新規獲得に注力せよ

離反率(顧客が離れる割合)は、シェアが小さいブランドほど高い傾向がある。とはいえ、顧客維持はマーケターのコントロール外であることが多いため、維持ではなく新規獲得に力を入れるべきという論調が強くなる。リーチ拡大こそがブランド成長の起点であり、顧客維持はその結果でしかないという視点が重要になる。

第4章 ライトユーザーこそがブランドを支えている

ブランドの売上の大部分は、実はライトユーザーによって支えられている。よく言われる「ヘビーユーザーを大切にしよう」という考え方は、売上を伸ばすうえではそれほど効果的ではない。ユーザーは状況によってヘビーにもライトにも変わるため、すべてのユーザー層に広くアプローチするマスマーケティングの有効性が強調される。

第5章 ブランド顧客の属性は驚くほど似ている

競合ブランドと自社ブランドの顧客プロフィールに、実はほとんど違いがないというデータが示される。細かなターゲティングは効果が限定的であり、ブランド成長に直結しづらい。購入者と非購入者の違いは属性よりも「認知・記憶構造」の差にあり、広く認知されることで自然に購入に結びつく構造が語られる。

第6章 競合ブランドを狭く定義してはいけない

すべてのブランドは他のブランドと顧客を共有しており、カテゴリの定義を消費者視点で捉えるべきとされる。企業内で「競合はこのカテゴリだけ」と定義するのは狭すぎる可能性がある。重要なのは、「誰と比べられているか」ではなく、「どう思い出されるか」。そのうえでブランドの差別性より存在感(セイリエンス)が重視される

第7章 ブランドに対する熱狂はまれである

消費者の多くは、購入経験のあるブランドにある程度の好意を持つ程度で、熱狂的ファンはごく少数にすぎない。これは「自然独占の法則」とも言われ、より大きなブランドがより多くのライトユーザーに好まれる構造。強いブランドを築くには、ライトユーザーとの接点と「使ったことのある」体験を広げることが重要になる。

第8章 差別化よりも独自性をつくる

ここで本書の核心的なメッセージが語られる。消費者はブランド間を深く比較していない。だからこそ、差別化戦略よりも、思い出してもらえる「独自性」をどう築くかが重要となる。ブランドの記憶構造をつくるうえで、セイリエンス(心の中での存在感)と一貫性がカギになる。これを支えるのがメンタル/フィジカル・アベイラビリティの概念である。

第9章 広告の目的は「思い出させる」こと

広告の最大の役割は「ブランドの説得」ではなく、消費者の記憶構造の中にブランドを再接続することにある。とくに年に数回しか買わないライトユーザーにとって、広告は「思い出させる仕組み」として働く。説得力のあるメッセージよりも、ブランドがどの文脈で想起されるかを意識した広告設計が求められる

第10章 値引きでブランドは育たない

価格プロモーションは一時的な売上を作る手段にはなるが、ブランドを選ばせる仕組みとしては不完全である。値引きで買われた商品は覚えられにくく、新規獲得や長期的な記憶構造への貢献が乏しい。価格を武器にしすぎると、ブランドが育たなくなるリスクもある。価格ではなく、存在感で買ってもらう道を探るべきとされる。

第11章 ロイヤリティプログラムの限界

ロイヤリティプログラムは、すでにロイヤルな顧客には「追い銭」でしかないし、非ロイヤルな層には効果が薄い。唯一機能するのは「ロイヤリティは低いがカテゴリの購買率は高い」層だが、ここも限定的。本章では、ロイヤリティプログラムを過信せず、むしろ観察・分析の手段と位置づけるべきだとまとめられている。

第12章 ブランド成長のための7つの原則

最後に、本書全体の要点が7つの原則として整理される。

  1. 多くの人にリーチすること
  2. 買いやすくすること(買わない理由を除く)
  3. 記憶に残る存在になること(目立つ)
  4. 記憶構造をつくること
  5. ブランド資産を構築すること
  6. 一貫性を保ちながら、新しさも失わないこと
  7. ネガティブ要素を作らないこと

ブランドは比較されるものではなく、思い出してもらえるかどうかがすべて。それが、本書全体に一貫するメッセージだ。

読後の感想と学び

正直に言うと、全体的にはとても読みづらい本でした。
翻訳のクセもあるのか、あるいは著者の書き方の特徴なのか、具体例がやたら多く、主張の本質が見えにくくなる場面も少なくありません。
とくに、コトラー的なマーケティング理論やブランド論への批判が繰り返されるところは、やや冗長に感じました。

それでも、内容そのものは非常にエビデンスベースで語られており、**「ブランド成長に不可欠なのは市場シェアの拡大であり、そのために新規顧客獲得が重要だ」**という軸の主張は、実務でも非常に腹落ちするものでした。

また、「差別化」ではなく「独自性やブランドとしての存在感(セイリエンス)をどう築くか」を重視する考え方は、自分の普段のマーケティング業務でも強く意識していきたいと思いました。
特に「メンタルアベイラビリティ(想起されやすさ)」と「フィジカルアベイラビリティ(買いやすさ)」という概念は、広告設計やブランド開発を行ううえでも役立ちそうです。

また、最後にまとめられていた「7つのマーケティング法則」は、現場視点でもとても実践的だと感じました。

気になった点・納得できなかった部分

一方で気になったのは、想定している商材やターゲット層がかなり限られている印象を受けたことです。
本書で繰り返し語られる理論は、主に日常消費財(飲料・日用品・食品など)の事例がベースになっているため、耐久財や高関与商材、BtoB領域などへの応用はやや難しいように感じました。

また、広告に関して「説得型の広告では効果が薄い」としつつ、「購買促進要因は活用すべき」といった記述にやや矛盾を感じました。
ロイヤリティプログラムへの批判に対しても、**「では具体的に現場でどうすればいいのか」**という部分が弱く、課題の提示に終始してしまっている点も少し残念でした。

全体として、批判的なスタンスが強めなわりに代替案が少ない箇所が散見され、読んでいて「これはどう読み替えて自分の業務に活かせばいいんだろう?」と迷う場面も多かったです。

こんな人におすすめ

  • ある程度マーケティング経験がある方
    → 初学者が読むにはやや難解。何を批判しているのか、どんな文脈の本なのかを理解している人の方が吸収しやすいと思います。
  • ブランドマネジメントや新規顧客獲得に課題を感じている方
    → とくに大企業で複数ブランドを扱っているマーケターや、ブランド横断での戦略設計に携わっている方には、新たな視点が得られる内容だと感じました。
  • 「差別化戦略」に頼りすぎていると感じている方
    → ブランドの存在感や「想起のされやすさ」をどう高めていくかに関心がある方には、多くのヒントが得られると思います。

おわりに

読みづらさはかなりありましたが、「ブランドをどう育てるべきか」「新規顧客をどう獲得していくか」に悩んでいるマーケターにとっては、一読の価値がある本だと感じました。

私自身は、本書で改めて意識させられた「買わない理由を与えないこと」や「買いやすさと記憶構造への働きかけを意識すること」を、日々のマーケティング施策にもっと取り入れていこうと思います。